もしもこの世界に「自分に都合のいい相手だけが襲ってくる柔道」があったなら、俺は黒帯だったかもしれない。
だが、現実はそう甘くない。
俺が出会ったのはブラジリアン柔術という、
いかにして相手の腕や脚の関節を極め、
首を締め落とすかに全力を尽くす、笑顔ゼロの世界である。
なぜ俺がそんな危険地帯に足を踏み入れたのか。
「ダイエットです♡」とか「健康のために始めました!」とかいう理由ではない。
本音で言おう。
“怪我をしないスポーツと聞いたから”なのだ。
けど、実際にやってみたら――
俺は速攻で、
肩甲骨が寝違えたみたいにひきつった、その痛み今も継続中。
最初の一ヶ月は、何をやってもダメだった。
先生が「相手の袖を持ってヒップスローして…」って説明してるそばから、
俺は「ヒップスローってケツを投げるんでしたっけ?」
終わったあとのフィードバックで「それじゃ一本背負いですよ」って言われたとき、
俺は静かにGoogleで「柔道 柔術 違い」と検索した。
要するに、「何言ってるか全然わからん」。
でも、そこから、少しずつ見えてきた。
柔術って、勉強と一緒やんけ、と。
学んだこと1:一回聞いてもできないことがある
最初の俺は、「教わったらすぐできる」と思ってた。
でも現実は、一回聞いたくらいじゃ何もできない。
「先生が悪い」とか「教え方が悪い」じゃない。
ただただ、自分の理解が追いついてないだけ。
これ、指導者としてめっちゃ大事な気づきだった。
「一回でできない人間は、普通である」と思えるようになった。
学んだこと2:でも、一回聞いてできる奴もいる
いるんだよ、天才タイプが。
「ここ押さえて、こう倒す」と説明された瞬間、
「え、こうですか?」つってバチーンと技極める人。
このとき、俺の心の中の小人がこうつぶやく。
「人は人、俺は俺」と。
他人と比較するな。俺は俺の自己最高を目指せば良いと思えるようになった
学んだこと3:練習量が多い奴が強くなる
どんなに不器用でも、
どんなに最初ヘナチョコでも、
練習量が多いやつが上手くなっていく。
これ、本当に見ててわかる。
「こいつ、週5で来てるだろ」ってやつは、1ヶ月で人間が変わる。
努力って、やっぱウソつかないんだな。
学んだこと4:質問が多い奴が伸びる
「さっきの技、なんでこうなるんですか?」
「このときの手の位置って、こうで合ってますか?」
質問の多い人は、とにかく飲み込みが早い。
ああ、自分の理解に責任持ってんなって思う。
で、そういう方に限って、別に派手に目立ってない。
ただ静かに、着実に、強くなっていく。
学んだこと5:メモと動画を見返す奴が強くなる
練習後にスマホで技を撮ってた人がいた。
で、次の週にその技を完璧に再現してきた。
「あの…動画100回見返しました」って。
ああ、これ、勉強も同じだなって思った。
自分の記憶力や直感を信じすぎる奴は、結局、成長が遅い。
学んだこと6:練習で負けまくる奴ほど強くなる
「うわ!また極められた!」
「うああああ!タップタップ!(降参の合図)」
って叫びながら転がってる奴。
たいてい、半年後に全員から勝ち星奪っていく。
そう、練習で負けを恐れない奴が、勝者になる。
これ、本当に衝撃だった。
学んだこと7:一人じゃ無理
柔術って、いわば「個人競技」だ。
でも、「練習」は完全にチーム戦。
一緒に練習してくれる仲間がいて、
自分の技を受けてくれる人がいて、
そんな人たちがいて初めて、強くなれる。
勉強もそうだった。
教室って、戦場じゃなくて、共に戦う道場だったんだなって気づいた。
柔術を始めてから、俺の「教える姿勢」は根本から変わった。
生徒ができなくても焦らなくなったし、
失敗してる生徒を見ると、「お、伸びるやつじゃん」と思えるようになった。
それは、柔術で床に溶け、
汗まみれでタップした俺がいたからだ。
だから今、俺は思う。
「全人類、半年は柔術やってから教壇に立て」
これが、俺の新しい教師論(暴論)である。