その日、彼は机に向かっていた。
目の前には山積みのプリント。
ノート。教科書。暗記カード。
そして、敵──時計の針。
深夜1時30分。
明日はテスト。
正確に言えば「今日」がテスト。
寝なければ、脳が死ぬ。
でも、寝たら、今度は未来が死ぬ。
そんな板挟みの中、
彼は、発明をした。
「……そうだ、時間を止めよう」
机の上にアラーム付きの時計を置く。
30分後にセットする。
そして……電源を切る。
「これは30分の仮眠じゃない。時空の停止だ」
目を閉じる。
30分寝る。
起きる。
時計を見てこうつぶやく。
「……おっけー、まだ1時30分」
そして再び問題集を開き、
“さっきと同じ時間”から勉強を再開する。
これはもう“技術”でも“努力”でもない。
狂気である。
でも、彼には理由があった。
勉強が終わってないのに寝るなんて、許せなかったのだ。
「もう今日は無理だ」と言って布団に入ったときの、あの“心のざわめき”。
やれることがあったのに、やらなかった自分を許せないあの感じ。
それを、彼は発明と狂気でぶん殴ったのだ。
………………………………..
君に、そんな狂気はあるか?
周囲の“普通”に合わせて、「このくらいでいっか」と止まっていないか?
「人間だもの」と自分を甘やかすことばかり上手くなってないか?
いやもちろん、寝ろ。
健康は大事だ。
でも、それでも、「やらなきゃ終わらない!」とベッドに背中を向けて立ち向かう夜があってもいい。
狂気は、努力の最終形態だ。
そこには称賛も承認もない。
ただ、静かに燃える「やらなきゃ」の炎があるだけ。
それが、君を“普通の努力”のその先に連れて行く。
だから今日、もうちょっとだけ踏ん張ってみよう。
プリント1枚。
英単語10個。
解法1パターン。
それが、君の狂気になる。
じゃ、時計の電源、入れてくるか。