中間テストの朝――
まだ髪が寝癖のままの男子生徒がこう言った。
「やべ、社会まだ全部覚えてない……けど、
今から詰め込めばいけるっしょ!」
そのとき私は思った。
君は天才か、それとも事故待ちか。
テスト開始20分前に山川の歴史を暗記するその姿勢はもはやギャンブラー。
「アレが来る気がするんすよ」とパチンコ屋に入るおじさんと大差ない。
でも、こういうギリギリ短期記憶でも、
定期テストでは、なんとかなっちゃうこともあるんですよね。
だからみんな調子に乗る。
「勉強なんてテスト前に詰め込めばいいっしょ〜」と。
しかしその刹那、
私は静かにこう言い放つ。
“受験”では、詰みます。
受験は違うんです。
“明日だけの記憶”じゃなくて、
“半年後・1年後も覚えている記憶”が求められる。
つまり、短期記憶では戦えない。
必要なのは――長期記憶。
じゃあどうするのか?
これまで私は塾で生徒にこう言ってきた。
「とにかく、接触頻度を増やせ!
記憶ってのは恋愛と一緒。
たまに会うイケメンより、毎日会うそこそこの男子の方が勝つ!」
(ただしこれは記憶においての話であり、リアル恋愛で負けた諸君の心のケアは別途請け負う)
さて、今日はさらに上の技を伝授しよう。
その名も――
“整理する”と“つなげる”。
ここからが本番だ。
まず、“整理する”とは何か。
これはつまり、
「バラバラの情報を、整理して覚えろ」ということ。
たとえば、「元素記号の1〜10番を順番に言ってみて」って言われたら――
普通の中学生は「は?そんなの理系の人のやるやつでしょ」って言ってチョコパイ食べ始める。
でも、「水兵リーベ僕の船、七曲がるシップスクラーク」って語呂で教えられた瞬間――
「え、なんか知らんけど言える!」ってなる。
これはただの魔法じゃない。
“情報をひとまとめにして(整理して)”“既に知ってる言葉やリズムにくっつける(関連づける)”っていう、人間の脳が「覚えたい!」ってなるスイッチを押してるだけ。
次に、“つなげる”。
これはもう、必殺技です。
簡単に言えば、
「すでにある知識に結びつけて覚える」
たとえば、
「仮定法=現実とはちがうことを言う文法です」って丸暗記するんじゃなくて、
「仮定法=“もしもボックス”で現実逃避する文法」って覚えたほうが絶対に頭に残る。
If I were a bird, I would fly to you.
(もし僕が鳥だったら、君のところに飛んでいくのに…)
いや、鳥じゃねえし!!飛べねえし!!
…でも、言いたいよね。届かない気持ち。
つまり、仮定法ってのは、
“叶わないけど言いたい”って気持ちを成仏させるための文法なんだ。
これが、「自分語」への翻訳。文法を“感情”に変えた瞬間、文はただのルールじゃなくて、ラブレターになる。
これがつなげる=“自分語”への翻訳だ。
このふたつができたら、もう記憶は“君のペット”です。
おいでって言ったら来るし、
しばらく放っておいても忘れない。
かわいがればかわいがるほど、懐いてくる。
さあ、君に問おう。
君の記憶は、今どこにいる?
まだ「前日に全部ぶち込む!」っていう短期記憶の沼にいるか?
それとも、
“何度も触れる・整理する・つなげる”の三銃士とともに、長期記憶王国に足を踏み入れるか?
選ぶのは君だ。
そして最後に、今日一番伝えたいことを。
忘れることを責めるな。
思い出せるように仕組みを作れ。
それが、受験を制する者の思考法。
君の勉強、ここからが本当の“記憶”の始まりだ。